聞こえが悪くなっているのに「聞こえている!」と言い張る家族に補聴器をつけてもらいたい

暮らし

年を取ってくると、いろいろな力が落ちてきます。
聴力も年齢とともに衰えてくる力の一つです。
呼びかけても聞こえない、大きな声を出さないと返事をしてくれない。
家族の聞こえが悪くなると一緒に生活しているほうが大変ですよね。
なのに肝心の本人は「聞こえている!」と怒り返してきたりするとお手上げです。
私はこの数年、補聴器の販売に携わっています。
いろんなお客様と接していると、必ずこういった家族に出くわします。
こういった人に補聴器をつけてもらうにはどうしたらよいのでしょうか?

補聴器は決して老人のものではない

「自分は聞こえているから補聴器なんて必要ない!」とおっしゃるお客様はたくさんいます。
補聴器が必要ない、とおっしゃる方は、だいたい口をそろえてこう言います。
「補聴器なんて老人のするものだから」
年寄りがするものだから、恥ずかしくてするものじゃない。
そういう気持ちがあるように見えます。

でも、補聴器は決して老人のものではありません
むしろ、聞こえが少し悪くなってきたな、と思ったら早めに装用してもらいたいのです。
最近では、イヤホンの多用で若い人たちにも難聴が増えているのだそうです。
補聴器は聞こえない音を補って生活のクオリティを上げるためのもので、視力が悪いから眼鏡をかけるのと変わらないのです。
補聴器は年寄りがするもの、という妙な固定概念をまずは捨ててもらいたいと思います。

困っているのは家族だけ

「自分は聞こえているから困っていない」とおっしゃるお客様は、自分のテレビの音量がどれだけ大きくなっているのかを知りません。
また、家族が意識をしてとても大きな声で話しかけていることにも気がついていません。
こういったお客様は、たいてい家族が無理やり補聴器をしてほしくて連れてこられている人が多いのです。
隣のテレビの音量が大きければ、家族はうるさくてたまりませんし、大きな声を出さないと振り返ってもらえないのは本当にストレスがたまるものです。
困っているのは家族だけなんですね。

聴力を測ってみること

補聴器を装用するためには、まず聴力を測る必要があります。
私の勤務する店でも、最初に耳鼻科への受診をおすすめしています。
難聴にもいろいろな症状があり、必ずしも老人性難聴だとは限りません。
耳鼻科で原因を調べて、補聴器を装用したら効果が出ますよ、とお医者さんから一言もらうだけでも気持ちが変わる方もいます。
どうしても受診を嫌がる方は、補聴器販売店でも聴力の測定をしているところもあるので相談してみましょう。

オージオグラム、と呼ばれる聴力のグラフを見ると、どの程度どの音域が聞こえていないのかがわかります。
中程度の難聴なら早めに補聴器をしてもらうのがよいのですが…

本人に気がなければ仕方がない?

私の勤務先では、オージオグラムをもとにして実際の補聴器で試聴をしてもらいます。
これはうちのお店で本当にあった話なのですが、補聴器なしではほとんど会話が聞こえなかったお客様に補聴器を試していただいた時のことです。
補聴器がない状態で「聞こえますか?」と普通の声で話をしても、「え?」と聞き返していたお客様。
いざ、試聴をしてもらったときに「聞こえますか?」と同じように尋ねると、即答で「聞こえない!!」と怒りました
お気づきかと思いますが、聞こえてるんですよね。
その後もいろいろとお話をして、補聴器をしている間は会話が成立していたのですが、最後には「こんなの聞こえないからいらない!」と言って外してしまいました。
結局このお客様は補聴器を購入することなくお店を後にしました。
ご家族は最後まで補聴器を買ってほしいとおっしゃっていましたが、本人に気がなければこのようなことになるケースが多いです。
それでも無理やり購入すると、せっかく買ったのに装用してくれない、なんていうこともあるようです。

難聴は認知症の危険因子になる?

私の勤務先では、先ほどのようなお客様には無理をして販売はしません。
せっかく買っていただいても使わない、ならまだよいのですが、「あんなの買ったって意味がない」など言われてしまうのも困ります。
ただ、最後の切り札としてお話することが一つだけ。
「難聴は認知症の危険因子になりうる」というお話です。
2017年に国際アルツハイマー病会議で「認知症の約35%は潜在的に修正可能な9つの危険因子に起因する」と発表されました。
その中でも「予防できる要因の中で、難聴は認知症の最も大きな危険因子である」というのです。

人の脳は、いろいろな刺激に触れています。
音の刺激は、人間の脳に大きな影響を与えているのです。
その音を失うと、認知症になるかもしれないという発表は衝撃的なものでした。
このお話をさせていただくと、みなさんとても興味を持っていただけます。
誰しも認知症にはなりたくない、と思いますよね。
今はこれだけ聞こえているかもしれないけれど、今後もっと聞こえなくなるとこういったリスクがありますから、なるべく「ちょっと不便」くらいで装用するのがいいですよ、とお話しします。
興味があったら、ぜひ「認知症と難聴」で調べてみてください。

無理強いは逆効果

販売をしている側からお話しすると、「補聴器なんか必要ない」というお客様に無理強いをしていいことは一つもありません。
むしろ、逆効果になることもあり、非常に難しいところです。

家族が無理やり勧めようとすればするほど、頑固になる人が多いのも事実です。
本人に装用の意思がないものを購入しても無駄になるだけなのです。
ぜひその気になったときにまたお話してもらうのが一番だと思います。
「その気」にさせるのは本当に難しいことだとは思いますが…

周りが困っているのに、本人が困っていない、というのはとても難しい事例です。
家族の立場にたってみると、どうしても補聴器をしてほしいと思うものですが、あまりお互いに意地にならないほうがいいと思います。
まだまだ日本では補聴器をする、ということに抵抗がある人が多いように感じます。
眼鏡と同じように、聞こえなくなったらすぐに補聴器を、という世の中になってくれるといいなと思います。